ウルヴァリン:SAMURAI レビュー

 ウルヴァリンを主役としたシリーズ最新作。
 本作の舞台は日本。ウルヴァリンが日本と馴染みが深いのは、原作コミックのファンにはよく知られているが、ついに大スクリーンでその物語が語られる時がやってきた。ファンとして感無量である。

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 先の戦い(『X-MEN:ファイナル ディシジョン』)で、愛する女性ジーン・グレイを自らの手で殺してしまったローガンヒュー・ジャックマン)は、深い後悔と自責の念に苛まれ世捨て人同然の暮らしを送っていた。
 だがそんな彼の前に現れたのが、日本刀を華麗に操る女戦士のユキオ福島リラ)。彼女は、ローガンが第二次世界大戦中に長崎で命を助けた大富豪・ヤシダの使いだった。
 ヤシダに招かれ、日本の地を再び訪れるローガン。彼を待っていたのは、死に瀕したヤシダとその一族の複雑な人間関係だった。
 ヤシダの葬式の最中、孫娘マリコTAO)を拉致しようと、ヤクザの一団が襲いかかる。マリコを守るために、心ならずも再び戦いに身を投じるローガン。だが彼の不死身の治癒能力に異変が生じ、命がけの危機が訪れる。そして逃避行の中、マリコとの間に新たな愛が芽生えていく。
 しかしローガンの行く手には、彼の不死身の能力を奪おうとする陰謀が待ち受けていた……


 本作の原題は『The Wolverine』という。
 ウルヴァリンというキャラクターをより掘り下げ、正に決定版となることを目指し製作された。その舞台に日本が選ばれたのは言うまでもなく、コミックでの彼の最初の主役シリーズ(『ウルヴァリン』ヴィレッジブックス刊)に由来するが、ウルヴァリンをX-MENの世界から完全に切り離すことで、その個性を浮き彫りにする狙いがあったのだろう(脚本段階では、「ミュータントは世界でウルヴァリンただ一人」という設定にする案も検討されたそうだ)。その狙いは的中し、今までのどのシリーズよりもウルヴァリンの内面に迫ったストーリーになっている。
 敵がヤクザや忍者というのも、ウルヴァリンの武器が両手の鋭い爪であり近接戦闘を得意とすることを考えれば、格好の相手と言える。シンゲン真田広之)との、爪と刀が激突する決闘は、両俳優の熱演で緊張感あふれる名シーンとなった。新幹線上の、めちゃ根性座ったヤクザとのバトルも見ものだ。

 物語的には、ジーンを殺したショックで生きる目的を見失ったローガンが、再び戦士としての誇りを取り戻すことが主眼になっている。象徴的なのは、ヤシダから聞かされた「クズリ」の伝説をマリコが話した時、「クズリはもういない」と応えるシーン。クズリ=ウルヴァリンは、ローガンにとって、戦士としてヒーローとしての呼称なのだ。
 そしてもう一度愛する者のために立ち上がった時、彼は言う。「俺はウルヴァリンだ」と。

 俳優陣は、主役のヒュー・ジャックマンの素晴らしさはもはや言うまでもない。親日家の彼の熱意が無ければ、この映画は誕生しなかっただろう。
 注目すべきは、今回抜擢された二人の日本人女優である。海外でトップモデルとして活躍する二人だが、本格的な演技は本作が初めて。それだけにぎこちない面もあるが、ハリウッドの一流俳優を向こうにまずは堂々たる演技だったと健闘を讃えたい。TAOは自然な演技で、しとやかさの中に芯の強さを感じさせる日本人女性を演じきった(理想のマリコでした)。福島リラは、原作のキャラを現代風にアレンジした、チャーミングな女戦士で個性を発揮し、アクションでも健闘。ローガンのサイドキック(相棒)として、今後の再登場を期待したいほどだ。

 日本人としては気になるのが日本描写だが、大規模な日本ロケを敢行しただけに、思ったほど違和感は無い。地理関係がおかしいだろう、など細かいツッコミはあるが(ここらへん、わざとなのか天然なのか判断に困るところ)。なにぶんコミックが原作なので、「現代日本に忍者なんているか!」と真面目な人は怒らないように。
 なお字幕版で見ると、英語と日本語が入り混じった独特の雰囲気が味わえる。


 脚本的にいま一歩甘さが感じられる点など不満もあるが、それでも個人的にはお気に入りの一本になった。なにしろ(ファーストクラスのカメオ出演を除けば)、四年ぶりのウルヴァリン。再会を心から喜ぼう。そして、来年にはX-MENの新作、『デイズ・オブ・フューチャー・パスト』が待っている(本作のエンディング・クレジット中に、嬉しいオマケがあるので、くれぐれもあわてて席を立たないように)。

 そして、それとは別に、ウルヴァリン単独映画の続編も期待したい。
 本作で改めて感じたのは、ウルヴァリンというキャラクターの自由度だ。X-MENはミュータント差別という主題があってなかなかそこから離れられないが、ウルヴァリンはどんなストーリーにも適応して、世界を広げられる。
 本作でウルヴァリンは日本人から「浪人」と呼ばれる。主君を持たない侍=目的を失った人間という否定的な意味で使われているのだが、いやいや、日本の時代劇では「素浪人」は、何物にも縛られない自由人のヒーローという意味もあるのだよ。
 素浪人・ウルヴァリンの、次なる冒険やいかに?考えただけでワクワクするではないか(次の舞台は、魔都マドリプールあたりかな?)。

 『ウルヴァリン:SAMURAI』全国劇場で絶賛上映中。



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ウルヴァリン:エネミー・オブ・ステイト レビュー

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 ウルヴァリン:エネミー・オブ・ステイト (ShoPro Books)


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「野獣に良心は無い。俺が野獣なら、この場でお前を殺している」


<ストーリー>
 かつての知人から「息子を誘拐された」と助けを求められ、日本に向かったウルヴァリン。だがそれは、暗殺忍者集団ハンドとテロリスト組織ヒドラが仕掛けた巧妙な罠だった……
 1か月後、重傷を負った状態でシールドに保護されたウルヴァリンは、殺戮と破壊を繰り返しながら米国の機密情報を奪い、逃走してしまう。彼はすでにハンドによって洗脳されていた。最も危険な人間兵器が悪の手に落ちたのだ。
 そして、ウルヴァリンはかつての仲間だったヒーローたち、ファンタスティック・フォーデアデビルX-MENを次々に襲撃していく。
 ニック・フューリーは、ハンドを熟知する暗殺者・エレクトラと共に、ウルヴァリンの行方を追うが……
 一方、ハンド・ヒドラ内部でも権力抗争が起きていた。新たに台頭してきたのは日本出身のミュータントであり忍者でもある、ゴーゴンという男。そして彼の率いる白光黎明会だった。

 やがて正気に戻ったウルヴァリンは、自らに、そして周囲の人間に死をもたらした者に復讐を誓う。
 ハンド、ヒドラ、白光黎明会、ゴーゴン。たとえ敵が何万人いようと、その全てに血の贖いを。
 ウルヴァリンの怒りはエレクトラ、フューリーを巻きこみ、ゴーゴンとの最終血戦が始まる!!


<感想>
 人気ライター、マーク・ミラー(『キック・アス』『アルティメッツ』)が、ベテランアーティストのジョン・ロミータJrと組んで送り出したアクション大作。
 マーク・ミラーは当時のインタビュー(『Wizard: Wolverine Special』2004年刊)で、このストーリーを「バイオレンスと死と破壊と混沌への賛歌」と称している。なるほど、次から次へとクレイジーな展開が起こり、352ページと大部ながら最後まで飽きさせない。
 本作は連載当時は二部構成で、前半がタイトルの「エネミー・オブ・ステイト」、そして後半ウルヴァリンの洗脳が解けてからの復讐劇が「エージェント・オブ・シールド」と題されていた(つまり本書はTPB二冊分なので、分厚いのも道理)。 

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 前半のヒーロー VS ヒーローも楽しいが、個人的には後半、ようやくウルヴァリンが洗脳から解けてからの大復讐劇が「キタキタ~~!!」という感じで、大変シビれます。
 ここではエレクトラ以外のヒーローが蚊帳の外に置かれ、「シールド VS ハンド&ヒドラ」の仁義なき戦いとして描かれている点に注目。だからこそ「エージェント・オブ・シールド」という副題なのだろう。事ここにいたっては、お行儀の良いスーパーヒーローは、もはや出る幕が無い(血みどろの戦いが終わった直後に現れるスパイダーマンは、日常への回帰を象徴するようだった)。

 真にマーク・ミラーらしい暴力と血みどろの世界。しかし今回は、いつものブラックユーモアは控えめだ。
 むしろ全編を覆っているのは、言い知れぬ悲しみである。救えなかった、一人の少年の命。それがウルヴァリンを突き動かすのだ。

 マーク・ミラーは、ウルヴァリンのキャラクター像について、こう語っている。
「ウルヴァリンの本質は、"人間の冷酷さにより怪物に変えられた、とても優しい男"なんだ。苦痛と暴力の下に、まだ善き心が残っている。彼は、スーパーマンよりもはるかに人格者だよ。人類が彼にしたことの後に、他の誰が許すことができる?彼は、エグゼビアの共存の夢を誰よりも信じてるんだ。人類とミュータントが衝突した時、どれほどの苦しみが起こるかを見てきたからだ。
 これが、日本人の武士道が、あれほど彼の心に響いた理由だ。彼は誇り高い男で、正しいことを為すためなら、どんなことでもする」
 ミラーは本作の前に『アルティメットX-MEN』で別バージョンのウルヴァリンを書いたが、ミラーらしく道徳心に欠けた男になっていた。しかしオリジナルのウルヴァリンに魅了されていたミラーは、その歴史を尊重し本作を書いたことがわかる。
「(アルティメット版との比較を聞かれ)ニューテイストのコーラと、クラシックなコーラを比べるようなものだ。オリジナルには勝てない」

 マーク・ミラーは本作について、「ウルヴァリンに関するアイディアを全てぶちこむ。デアデビルにとっての『ボーン・アゲイン』、バットマンにとっての『イヤーワン』のような、ウルヴァリンの決定版にしたい」と意気込みを語っている。
 その野心がかなえられたかは読者それぞれに判断してもらいたいが、ミラーの手がけたウルヴァリン二部作(本作と続く『オールドマン・ローガン』……近未来を舞台に"ウルヴァリン+許されざる者”といった話。こちらも傑作、求む翻訳!)は、ファンの間でも高い人気を勝ち取っている。



 Wolverine by Mark Millar Omnibus HC
 マーク・ミラーの作品をまとめた、ハードカバー豪華本。


 最後に余談になるが、上記のインタビューの中でスーパーヒーローのコスチュームについて言及されている箇所がある。ちょうど、このエピソードの少し前、『アストニッシングX‐MEN』で久しぶりに、ウルヴァリンは黄色と青のコスチュームに復帰している。それまでの数年間は、黒いレザーのジャケットか私服で活躍していた。
 結果的に言うと、コスチュームに戻ったのはタイミングが良かったと言える。特に前半、洗脳された間はマスクで表情が隠れることが大きな効果を上げていたからだ。
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 マーク・ミラーが「コスチュームは、スーパーヒーローにとって欠かせない物だ」とコス肯定派なのに対し、ジョン・ロミータJrが「僕は、タイツのコスチュームはどれも好きじゃないんだ。だってちょっとバカみたいだろ」と、否定派なのが面白い。後年このコンビは、現実の世界でコスチュームを着てスーパーヒーローごっこに興じる人々を描いた怪作『キック・アス』を生み出すことになる。
 
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ヒットマン レビュー

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ヒットマン1
ガース・エニス (著), 海法紀光 (翻訳)
エンターブレイン 384ページ  ¥ 3,150


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「俺の名は、トミー・モナハン。金をもらって人を殺す。そういう仕事だ」


「ヒットマン」ことトミー・モノハンは、ちょっとした超能力を持っている。テレパシーと透視能力。便利そうだろう?
 ただし、トミーはスーパーヒーローなんかじゃない(彼は「スーパーヒーローは全員アホだ」と思ってる)。その能力を使って、「超人専門の殺し屋」をやっているのだ。ゴッサムシティじゃ、危険な仕事には事欠かない。例えば、そう、ジョーカーの暗殺依頼とかだ。
 楽な仕事じゃない。バットマンの邪魔は入るし、おまけにギャングのボスにも恨みを買って命も狙われている。
 しかし仕事の後には、冷えたビールと悪友たちとのお喋りが待っている……


 ガース・エニス&ジョン・マクリアが創りあげた、アメコミ史上で最もユニークなはみ出しヒーロー、ヒットマンの翻訳がついに発売された。
 主人公のトミーは「善人は射たない」という信念はあるものの、金と女とビールと野球賭博のために、せっせと殺し屋稼業にいそしむ、まあ悪党である。しかしどこか正直で、友情に厚く、不思議な魅力を持っている男。その仲間たちも、超能力こそ無いが一癖も二癖もある奴ばかりだ。
 おなじみバットマンの本拠ゴッサムシティを舞台に、トミーと仲間たちの繰り広げる狂騒の日々は、およそ一般的なスーパーヒーローコミックのイメージとはかけ離れている。そのテイストは、むしろハードボイルド小説や映画に近い(本編でもよく映画の話が出てくる)。
 そのテイストに、アメコミ特有のタイツを着たスーパーヒーロー・スーパーヴィランが混ざることで、極めてユニークな世界観が生まれている。翻訳第一巻では、バットマンはもちろん、ジョーカーといったゴッサムシティのヴィランたち、エトリガン・ザ・デーモンロボといったゲストが登場する。来年初頭に発売予定の第二巻には、グリーンランタンも登場するはずである。
 まあヒットマンにかかっては(ガース・エニスの手にかかっては、と言うべきか)、大体ロクな目には合わないのだが。

 ブラックコメディ的な面もある本作だが、魅力はけっしてそれだけではない。
 仲間の1人の死が描かれるシーンでは、不覚にも涙がこぼれた(確か原書で読んだ時も泣いたな、俺)。あいにく、スーパーヒーローでもない只のチンピラは、死んでしまえば生き返ったりはできないのだ。 

 狂騒の果ての、苦い味。それもまたハードボイルドだろう。

 
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